課題・背景
Background

日本人には合わない海外製シート

カヌー競技はヨーロッパが主流です。そのため、カヌー用具のほどんどはヨーロッパ製で、西洋人向けに設計されています。日本人の体格には合いません。
特に大きな問題となっているのが座面(シート)です。カヌー競技では、パドルだけでなく、シートを使った体重移動が勝敗のカギとなるのですが、日本には座面をオーダーメイドする企業はありません。選手自身がヨーロッパ製の座面にスポンジパッドなどを挟み込み、無理やり使っているのが現状です。

そういった悩みを解消すべく、純国産カヌープロジェクト「水走-MITSUHA-」では、日本人の体格にあった座面を製作することとなりました。

 

 

対応策・製作手順
Solution

テックラボでは、自動車の試作開発などで培った技術を用いて、次のような手順で製作を行いました。

体の計測

まずは3次元測定器を用いて、搭乗者の骨格や姿勢を計測。人間は完全に停止ができないため、通常の製作物とは違った計測ノウハウが必要です。

実物大のモデルから微調整

測定器で得たデータを使い、マシニングセンタで原寸のモデルを削り出します。しかし、機械的な数値データだけでは、使いやすさは得られません。
船内の活動をイメージしてもらいながら選手に座ってもらい、感触を確かめてもらいます。熟練のモデラーが、削りだしたモデルを繰り返し調整していきます。

成型

モデラーが調整した形状をもとに、CFRPの積層構成を設計します。硬さ、重量についてもこの段階で決まってきます。
積層構成の決定にはコンピューター解析と、CFRP成型に関するこれまでのノウハウを融合させ、最適な剛性と軽さを実現しました。

取付

シートと、船体本体との取り付け方にも工夫が必要です。カヌーの場合、シートは船体全体の剛性や重量バランスなどに影響を与える重要な要素です。
取り付け方一つで乗り味が変わってしまいます。
搭載する船の形状を3次元測定器で計測し、船体全体とシートの結合をコンピューター解析することで、一体感のあるカヌーを仕上げることができました。

 

 

結果・今後に向けて
Result

吉田選手のご協力のもと、満足いくものを仕上げることができました。今回の座面はカヌーを対象とするものでしたが、チェアスキーなどの競技はもちろん、福祉関係の椅子にも有効な技術です。
たしかに、最近の3次元測定機器の性能は進化し、特別なものではなくなってきました。しかし、「人が使う」部分については、計測結果には表れない数値を汲み取る理解力と、使用者の想いを達成する技術力が成果物の価値を高めると考えます。

テックラボでは、人と機械をつなげるインターフェースにおいても十分な理解と技術を提供し、試作・製作で応えてまいります。

プロジェクトを振り返って

私も主流のヨーロッパ製カヌーを使用しています。他の日本人と同様、フィッティングには悩みを抱えていました。カヌーでは、着座位置をずらさず重心を維持することが重要です。そのため、シートの調整には気を使っていました。
製作を進めていくと、いくつか重要な要素がわかってきました。特に、恥骨と坐骨の接触点、足を開く角度、身体をかがめた際に接する背もたれの形状です。この3点を追求するために、テックラボの技術者様とは繰り返し調整を行ってきました。
一からシートを作り、身体にフィットする物を作ることの難しさ、重要さを痛感しました。
テストも順調で、この新しいシートは、身体とボートをつなぐ新しい武器として生まれ変わりそうです。これからのオリンピックに向け、よりよい装備で戦えることに感謝します。

吉田 拓