熱膨張ゼロ以下!? 金属にはないCFRP・カーボンの可能性

熱膨張とは? 熱膨張率について

熱膨張(ねつぼうちょう)とは、温度の上昇に比例して物質の体積が膨張する現象のことをいいます。基本的に材料の種類にかかわらず、固体や液体全ての状態に対して熱膨張は発生します。温度変化の激しい環境ではもちろん、変化が軽微であっても、半導体や精密機械、工作機械などにおいては精度に影響を与えまるため、熱膨張には注意を払う必要があります。

膨張の割合は物質によって異なり、その割合は熱膨張率(単位:1/℃)で表されます。例えば長さ1000mmの鋼の丸棒を10℃から40℃に変化させる(30℃上昇)と、その長さは0.36mmになります。

鋼の熱膨張率* 12 x 10-6 /℃
計算式:1000 x 30 x 12x 10-6 = 0.36
(*鋼の種類によって微妙に違いますが、概ね11〜12の間なので簡単のため12としました)

その差は軽微ですが、寸法公差に置き換えると精級を若干外れて中級相当となり、要件によっては問題となることがあります。

熱膨張により寸法が変化

熱膨張はなぜ起こる

熱とは原子の振動です。すべての物質は原子から構成されており、温度が上昇するとその振動幅が大きくなります。ですので、基本的には温度が上昇すると物質の体積が膨張します。すなわち熱膨張率は基本的にはプラス(正)の値をとります。

原子の振動幅の増大により熱膨張が起きるイメージ図

原子の振動幅の増大により熱膨張が起きる

炭素繊維はマイナスの熱膨張を持つ!その理由

これまで温度に“正”比例して物質は膨張するとお伝えしました。しかしCFRP・ドライカーボンに使われている炭素繊維には繊維方向に対して負の膨張、すなわち温度上昇に対して繊維長さが縮みます。
その理由は炭素繊維の極端な異方性(=方向によって性質が異なること)があり、体積膨張が径方向に強く作用して太った分、繊維方向には縮むことになるためです。

負の熱膨張を持つ理由のイメージ図

負の熱膨張を持つ理由

ゼロ熱膨張もできるCFRP・ドライカーボン

CFRP・ドライカーボンは炭素繊維とマトリックス(母材である樹脂)との複合材料です。マトリックスは正の熱膨張を持つため、CFRP・ドライカーボンとしての熱膨張は、炭素繊維とマトリックス樹脂との綱引きで決まります。

したがって、熱膨張がマイナスといった特異な素材もできますが、何より炭素繊維とマトリックスとの配合や、炭素繊維の強化方向を調整することで、熱膨張を極限までゼロに近づけることが可能な熱的寸法安定性に優れた素材です。

主な構造材の熱膨張率と比重
熱膨張率[ppm/℃] 比重
炭素鋼 11 7.9
SUS304 17.3 7.9
16.9 8.9
アルミニウム 23.5 2.7
マグネシウム 26 1.7
チタン 8.9 4.5
インバー 0.5〜3 8
CFRP(汎用) 1〜3 1.5
CFRP(低熱膨張) 0.1〜1 1.6

まとめ・採用事例

以上のようにCFRP・ドライカーボンはマイナスの熱膨張率を持つ炭素繊維の特徴を活かした低熱膨張構造材で、温度変化のある環境下でも寸法変化の小さい高精度部品に役立てることができます。寸法変化を嫌う光学系部品やスケール、駆動部品に最適で、望遠鏡や、液晶・半導体製造装置、計測装置やロボット部品としても大いに活躍しています。

テックラボでは熱を考慮したCFRP・ドライカーボンの試作開発、設計、成形、その他コンサルティングを承っております。熱膨張にお困りの方、環境変化に強い高精度部品の製作をお考えの方等、お気軽にお問い合せ下さい